ラガーを発明したのは大きな間違いだった

ラガーを発明したのは大きな間違いだった

ビールは人類に最も愛されている飲み物の一つであるだけでなく、人類最古の飲み物の一つでもあります。最近の考古学的発見により、ビールは地中海東部で 13,000 年前に遡ることがわかりました。かつては女性だけが醸造できるほど神聖なものと考えられていましたが、魔女の疑いでその考えは完全に廃れました。

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私たちのお気に入りのビールの起源も、歴史と科学の楽しい組み合わせによって明らかになり始めています。4 月 27 日にFEMS Yeast Research誌に掲載された研究で、下面発酵酵母で作られるライトタイプのビールであるラガービールの起源が明らかになりました。ラガービールは淡色、濃色、琥珀色などがあり、貝類、焼き豚、スパイシーな料理などとよく合います。

研究チームは、進化論やゲノム研究と並行して歴史的記録を活用し、ラガーはバイエルン選帝侯マクシミリアン1世の宮廷醸造所、いわゆるホーフブロイハウスで生まれた可能性が高いと考えている。

20 世紀初頭には、ラガーがエールを上回り、最も一般的に生産されるビールとなり、世界中で年間 1,500 億リットル以上のラガービールが販売されています。しかし、エールからラガーへの移行は、中世末期にドイツで新しい酵母種であるサッカロミセス パストリアヌス、つまり「ラガー酵母」が出現した数世紀前に始まりました。この新しい酵母は、17 世紀初頭に上面発酵のエール酵母サッカロミセス セレビシエと耐寒性のサッカロミセス エウバヤヌスが交配して生まれたハイブリッド種でした。

「ラガーは、下面発酵と呼ばれる酵母を使って低温で醸造されるビールです」と、研究著者でコーク大学の微生物学者ジョン・モリッシー氏はザ・カンバセーションに書いている。「酵母は単細胞菌類で、醸造で麦芽糖をアルコールと二酸化炭素に変換し、ビールにアルコール感と発泡性を与えるために使われます。酵母は上面発酵か下面発酵のどちらかです。」

S. pastorianusは下面発酵のラガー酵母で、その起源は「謎と論争に包まれている」とモリッシー氏は言う。このハイブリッド酵母は、伝統的なエール発酵が野生酵母に汚染されたときに生まれたと想定されていた。しかし、この研究チームはこの歴史的想定に疑問を抱き、中央ヨーロッパの歴史的醸造記録を詳細に分析してさらに調査した。彼らは、ハイブリッドS. pastorianus酵母が誕生する 200 年前に、バイエルンで「ラガースタイル」の下面発酵が実際に行われていたことを発見した。

研究チームは、耐寒性のS. eubayanusで醸造したビールを汚染したのは、実は上面発酵のエール酵母であるS. cerevisiaeだったと考えている。汚染酵母の発生源は、バイエルン州の小さな町シュヴァルツァッハの小麦醸造所だったと研究チームは考えている。

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「下面発酵はバイエルン北部で始まりました。ドイツのこの地域では一般的な方法だっただけでなく、1516年のバイエルンビール醸造法では下面発酵しか認められていませんでした。そのため、少なくとも16世紀以降、バイエルンのブラウンビールは、シュテルヘーフェンと呼ばれる異なる下面発酵酵母の混合によって生産されていました」とモリッシーは書いています。

しかし、隣国のボヘミアでは、 S. cerevisiaeを使った素晴らしい白ビールが大量に作られ、バイエルンに輸入されていました。これらの輸入による経済への打撃を抑えるため、バイエルンの統治者ヴィルヘルム 4 世は、1548 年にハンス 6 世フォン デゲンベルク男爵に、ボヘミアとの国境地域で白ビールを醸造し販売する特別特権を与えました。

マクシミリアン1世は1602年に権力を握り、自ら小麦ビールの特権を掌握し、フォン・デゲンベルク家のシュヴァルツァッハ醸造所を乗っ取りました。研究チームは、小麦醸造所の酵母がミュンヘンの宮廷醸造所に持ち込まれ、そこで交配が行われ、ラガー酵母S. pastorianusが誕生したのは1602年10月だと考えています。

「この理論は、 S. pastorianusの親であるS. cerevisiaeが、大麦ベースのエールに使用される菌株よりも小麦ビールの醸造に使用される菌株に近いことを示す、公表されている遺伝学的証拠と一致している」とモリッシー氏は書いている。

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